日本固有の領土である尖閣諸島(沖縄県)の沖で起きた中国漁船衝突事件から10年がたった。
日本にとり極めて後味の悪い事件だった。
当時の菅(かん)直人・民主党政権の弱腰な対応が尖閣をめぐる事態を少しも改善させなかった点を教訓にしたい。事件から今に至るまで、尖閣を狙う中国の圧力は強まるばかりだ。尖閣を守り抜く日本の決意を行動で示していくことが欠かせない。
平成22年9月7日、中国漁船が領海に侵入し、違法操業を取り締まろうとした海上保安庁の巡視船に繰り返し体当たりして破損させた。海保は漁船を拿捕(だほ)し、中国人船長を公務執行妨害の容疑で逮捕した。中国政府は激しく反発し船長の釈放を要求した。那覇地検は「今後の日中関係を考慮した」ことを理由に、船長を処分保留のまま釈放した。
日本が中国の内政干渉に屈し、自国の領域で起きた事件の法執行を放棄した。このような姿勢をみて、中国は「日本与(くみ)しやすし」という印象を持っただろう。
菅首相は「検察独自の判断」と説明したが、事件から3年後に真相が判明した。当時官房長官だった仙谷由人氏は、釈放をめぐり水面下で法務・検察当局に政治的な働きかけをしたと認めた。とんでもない話である。
法を曲げるという誤った政治判断を検察当局に押し付け、責任を負わせた。二度と繰り返してはならない。
当時、中国は日本に猛抗議するだけではなかった。日本企業の中国駐在員を不当に拘束し、レアアース(希土類)の事実上の対日禁輸措置をとった。中国各地で日本の公館や邦人への嫌がらせが相次いだ。天津市の日本人学校には金属球が撃ち込まれた。
華為技術(ファーウェイ)問題などをめぐり、カナダやオーストラリアにさまざまな圧力をかける最近の中国の姿とそっくりだ。
中国の海警局公船による尖閣海域への侵入は常態化し、日本漁船を追い回すようになった。28年8月には、尖閣海域へ中国の約300隻の漁船と10隻以上の公船が押し寄せてきた。
中国の攻勢をはね返す一層の努力が必要だ。ポスト安倍政権は尖閣を守り抜くために、学術調査員や自衛隊、警察の配置を含む島の有人化、避難港やヘリポートの建設に踏み切るべきである。
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2020年9月7日付産経新聞【主張】を転載しています